原田美枝子のキャリアにおける決定的な国際的マイルストーンとなったのが、1985年公開の黒澤明監督による超大作映画『乱』です。シェイクスピアの『リア王』をベースにした戦国スペクタクル巨編において、彼女が演じたのは一族を滅ぼされた復讐のために一文字家を内部から崩壊へと導く冷徹無比な悪女「楓の方(かえでのかた)」でした。
能面のような冷ややかな美貌の奥に凄まじい憎悪を秘め、夫の弟である次郎(根津甚八)を刃物で脅した直後に誘惑する伝説のシーンは、日本映画史屈指の名場面として世界中で語り継がれています。黒澤監督自身も彼女の集中力と表現力を高く評価し、後に製作された『夢』(1990年)における雪女役などでも続けて起用しました。
海外の映画祭や批評家からも「シェイクスピア劇のいかなるマクベス夫人をも凌駕する悪魔的な美しさ」と絶賛を浴び、原田美枝子の名は世界的名女優として広く知れ渡ることになりました。