片岡千之介を語る上で欠かせないのが、歌舞伎界の名門「松嶋屋」の格式と歴史である。十五代目片岡仁左衛門を祖父に持ち、父・片岡孝太郎のもとで育った環境は一見恵まれているように映る。しかし、伝統の重圧は時として若き役者の肩に重くのしかかる。彼が幼い頃から叩き込まれたのは、単なる型の手ほどきではなく、役の「心」を生きるという松嶋屋独自の演技哲学であった。
舞台上でみせる一瞬の隙もない身こなしや、台詞の行間に漂う艶は、日々の過酷な稽古のたまものだ。祖父・仁左衛門から授かった「お客様に感動を届けるための妥協なき執念」は、千之介の血肉となり、どのような役柄においても揺るぎない芯を作り上げている。