一度は演技を捨てた松重豊を再び映画業界へと引き戻したのが、当時新進気鋭の映画監督として注目されていた黒沢清だった。黒沢監督の強い熱烈なオファーにより、1992年公開の映画『地獄の警備員』で主演に抜擢される。当時29歳直前だった彼が演じたのは、巨漢の元力士という異色の経歴を持つ殺人鬼の警備員・富士丸役だった。
セリフを極限まで削ぎ落とし、圧倒的な体躯と冷酷な眼光だけで恐怖を表現したこの怪演は、映画関係者や観客に強烈なインパクトを与えた。この作品での好演により、彼は映画界に「松重豊」という唯一無二の異彩を放つ役者が存在することを鮮烈に知らしめたのだった。