理研を追われた小保方氏を待ち受けていたのは、アカデミズムの世界からの完全な追放でした。彼女が学位を取得した早稲田大学は2014年秋、提出された博士論文に広範な剽窃や誤植を認め、猶予期間を設けたうえで論文の再提出を求めました。しかし、提出された改訂版論文も審査基準をクリアできず、2015年11月に早稲田大学は正式に小保方氏の博士学位を取り消す処分を下しました。
社会的に孤立の淵に立たされた小保方氏は、沈黙を破り2016年1月に講談社から手記『あの日』を上梓します。手記は25万部を超えるベストセラーとなり、世間に凄まじい衝撃を与えました。そこで語られていたのは、メディアで報道された「悪意の研究不正者」像とは全く異なる視点でした。
本著において小保方氏は、自身の未熟や過失を謝罪しつつも、細胞の取り違い疑惑の責任はマウスの提供元である若山研究室側にあったのではないかという疑念や、理研上層部の政治的思惑、笹井氏との間に交わされた悲哀に満ちたメールのやり取りを赤裸々に暴露しました。実験ノートの杜撰さなど科学者としての基礎的資質の欠如は擁護できなかったものの、組織的な責任をひとりの若手研究者に押し付けた構造への疑問を提起する一冊となりました。