時計の針を1998年夏の甲子園に戻します。豊田大谷と宇部商の1998年の激闘は、両校譲らぬ白熱した投手戦となり、試合は2対2のまま延長戦へと突入しました。当時の高校野球規則における延長上限である宇部商と豊田大谷の延長15回裏、1死満塁という絶体絶命のピンチを迎えた藤田投手は、すでにひとりで200球を超える熱投を続けていました。
カウントは3ボール2ストライク、まさにフルカウント。豊田大谷の打者・古畑和彦選手への次の一球が投じられようとした瞬間でした。捕手からのサイン確認時、藤田投手がわずかに身体を静止させかけ、そこからサインに首を振って仕切り直そうとした瞬間、グラブと上体が不自然に揺らぎました。そのわずかな挙動を、球審は見逃しませんでした。
「ボーク!」の声とともに三塁走者が本塁へと生還し、3対2で試合は唐突に終了。これが甲子園史上初のボークによるサヨナラ劇でした。あまりに不条理で突然の幕切れに、マウンド上の藤田投手はその場に膝から崩れ落ち、捕手の上本達之選手(元埼玉西武ライオンズ)も茫然自失となって立ち尽くしました。熱戦に沸いていたアルプススタンドは一転して静まり返り、日本中が騒然となった瞬間でした。