「会津のわっぱ飯」と聞くと、何百年も前から城下町で受け継がれてきた伝統食を想像する方が少なくありません。しかし歴史の記録を紐解くと、この名物は昭和45年(1970年)に誕生した比較的新しい郷土料理であることが分かります。
生みの親は、会津若松市栄町に店を構える「割烹会津田季野」の初代店主です。当時、奥会津・檜枝岐村(ひのえまたむら)の木こりたちが山仕事へ行く際、ご飯が傷みにくく冷めても美味しく食べられるよう愛用していた「曲げわっぱ」の弁当箱に出会ったことがすべての始まりでした。初代店主は、この素朴で機能美にあふれる伝統工芸の器を使い、「会津の豊かな米と食材を熱々の状態で提供する新しい料理は作れないか」と試行錯誤を重ねました。
会津産コシヒカリに出汁を効かせ、鮭、蟹、山菜、きのこなどを彩り豊かに盛り付け、曲げわっぱごと強火のせいろで一気に蒸し上げる調理法を確立。木肌を通して余分な水分が抜け、杉の清々しい香りが米の一粒一粒に移る「輪箱飯(わっぱめし)」が完成しました。器の美しさと立ち上る蒸気、そして素材の旨みが凝縮された味わいは瞬く間に評判を呼び、半世紀を経て「会津に来たら絶対に食べるべき名物」へと定着したのです。
また、田季野の魅力は料理の味だけに留まりません。店舗の建物は、会津藩の代官所であった南会津の「旧糸沢陣屋」を移築・復元した築200年を超える歴史的建造物です。太い欅(けやき)の梁が交差する吹き抜けの空間や、囲炉裏の燻煙が染み込んだ重厚な佇まいの中でいただく食事は、まるで江戸・明治の時代にタイムスリップしたかのような情緒を体験させてくれます。