国立新美術館を訪れた人が最初に驚く事実が、「この美術館には常設のコレクション(収蔵品)が存在しない」という点です。東京国立近代美術館や国立西洋美術館のように、歴史的名作を買い集めて収蔵・保管・常設展示するスタイルとは根本的に設計思想が異なります。
文化庁および独立行政法人国立美術館の設立趣旨資料によると、同館はヨーロッパで見られる「クンストハレ(Kunsthalle:コレクションを持たず、展覧会事業に特化する美術展示館)」のコンセプトを日本の国立施設として初めて全面的に採用しました。自前の収蔵庫を持たない代わりに、展示室の床面積を極限まで広げ、国内外の優れた芸術作品を集約・発信することにリソースを全振りしているのです。
この運営モデルが採用された背景には、日本の美術界における長年の構造的課題がありました。国内の美術団体が主催する「公募展」の発表会場不足を解消しつつ、世界水準の大型国際企画展を巡回受け入れできるメガ展示施設が首都東京に求められていたためです。約14,000㎡という国内屈指の展示スペースは、まさに「動く展覧会のための巨大な器」として計算し尽くされた結果生まれた機能美なのです。