松田優作が重篤な病を隠して撮影に挑んだ背景には、「俳優・松田優作」としての絶対的な美学と覚悟が存在していました。医師からは即時の手術や治療を強く勧められていましたが、膀胱を摘出する手術を受ければ人工膀胱(ストーマ)の装着が必要となり、激しいアクションシーンはおろか、自身の理想とする肉体表現が不可能になる恐れがあったためです。
「ここで立ち止まるわけにはいかない」「役を降ろされるわけにはいかない」――その一心で、彼は主演のマイケル・ダグラスや高倉健、監督のリドリー・スコットら制作陣に病状を一切告げず、鎮痛剤を服用しながら撮影を完遂させました。冷徹で狂気に満ちたヤクザ・佐藤コウジ役で見せた鬼気迫る眼光と圧倒的な存在感は、まさに己の生命を削り落としてフィルムに焼き付けた奇跡の産物でした。
完成した映画が全米および日本で大ヒットを記録し、世界中の映画人から称賛の声が届き始めたまさにその時、優作の肉体は限界を迎えていました。世界へ羽ばたく翼を手に入れた瞬間の別れは、映画史における最大の悲劇の一つとして記録されています。