神宮外苑再開発が社会的な大論争へと発展した契機は、外苑のシンボルである豊かな緑と歴史的景観が損なわれるのではないかという強い危機感でした。特に神宮外苑の象徴である「4列のイチョウ並木」への影響や、100年かけて育まれた数千本の樹木伐採に対する懸念が急速に広がりました。
2026年には、世界的な音楽家である故・坂本龍一氏が生前に東京都や関係各所へ送った手紙が公表され、開発の見直しを求める声が一気に社会現象となりました。さらに、ユネスコの諮問機関である「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の国内委員会が、神宮外苑の文化的価値が破壊されるとして「ヘリテージ・アラート(遺産警告)」を発出。イチョウ並木の根系が新球場建設の掘削工事によって損傷するリスクを指摘し、計画の全面的な再考を求めました。
こうした世論の高まりと東京都からの要請を受け、事業者側は樹木保全に関する見直し計画を策定。新球場の建設位置を当初案から数メートル後退させてイチョウ並木との距離を確保する措置や、伐採予定だった樹木の移植検討、保全対象樹木の再精査などを盛り込んだ修正案を公表しました。しかし、歴史的風致の維持を求める市民団体や専門家からは依然として慎重なモニタリングを求める声が続いており、開発の経済的要請と歴史・自然環境の保全という近代都市開発における普遍的な対立軸が今なお問われ続けています。