司馬遷の『史記』をはじめとする中国の正史記録と、漫画『キングダム』の間には、読者を驚かせる興味深い脚色と再解釈が存在します。原泰久氏の巧みなストーリーテリングによって命を吹き込まれたキャラクターたちの史実の真実を検証します。
1. 主人公・信(李信)の史実における立場
作中では下僕出身の孤児として描かれる信ですが、史実の李信は秦の名門貴族の出身(李広の先祖)とされています。若くして将軍となり、趙や燕の攻略で輝かしい軍功を立てた俊英でした。後に楚攻略で20万の兵を率いて侵攻し、名将・項燕に大敗を喫した記録が有名ですが、この挫折が作中でどのように描かれるかが最大の注目ポイントとなっています。
2. 性別の反転:羌瘣と楊端和の真実
作中で絶大な人気を誇る羌瘣と楊端和は、史実ではいずれも男性の武将として記録されています。『史記』の「秦始皇本紀」において、羌瘣は王翦とともに趙の邯鄲を平定した有能な将軍として名を残し、楊端和も趙攻略で城を包囲した秦の正統な将として登場します。女性キャラクターとして再定義したことで、物語に深遠な情緒と華やかさがもたらされました。
3. 王騎(おうき)のモデルと桓騎(かんき)の結末
王騎は、史実に登場する「王齮(おうき)」と「王騎」という同音の将軍を同一人物として統合・昇華させた完全なオリジナル解釈のキャラクターです。一方、野盗出身として描かれた桓騎(樊於期との同一視説もある)は、史実でも肥下の戦いで李牧に大敗し、その後「戦死した」とする説と「燕国へ亡命した」とする説に分かれています。作中では逃亡を選ばず、自らの信念を貫いて李牧本陣へ突撃し散る道を選びました。