お屠蘇(正式名称:屠蘇延命散・屠蘇酒)という言葉の根底には、漢代の東洋医学思想が深く根づいています。「屠」には悪鬼や邪気を屠る(ほふる、退治する)という意味があり、「蘇」には死者を蘇生させ、魂を目覚めさせるという意味があります。すなわち、「体内の病魔や邪気を払い、生命力を蘇らせて長寿を得る」という願いがこの一文字一文字に込められているのです。
お屠蘇の由来は、中国の三国時代(184年~280年)に魏の国で活躍した伝説的な名医・華佗(かだ)が考案した処方に遡ります。華佗が三国志の英雄・曹操に厄除けと健康を祈願して献上した薬酒が原型とされ、唐の時代には正月に飲む風習として定着しました。
日本へは平安時代初期の弘仁年間(9世紀初頭)、嵯峨天皇の御代に宮中へ伝来しました。当初は正月元旦に天皇が天下泰平と万民の健康を祈る宮中儀礼(四方拝に続く屠蘇の儀)として執り行われていましたが、室町時代には武家社会へ、そして江戸時代中期になると庶民の年中行事として全国へ広く普及しました。数千年の時を超え、無病息災を祈る人々の切実な願いが形を変えずに受け継がれています。