まずは歴史の針を巻き戻してみよう。ビーフストロガノフは、19世紀のロシア帝国で誕生したとされる。ストロガノフ伯爵家のお抱えシェフが、年老いた伯爵でも食べやすいように牛肉を細切りにして煮込んだのが始まりという説が有力だ。極寒の地で生まれた、貴族の宮廷料理なのである。
一方のハヤシライスは、完全なる「日本生まれ」の洋食だ。明治時代、文明開化の波に乗って誕生した。丸善の創業者である早矢仕有的(はやしゆうてき)が考案したという説や、上野精養軒の料理人が作ったという説など、諸説紛々。しかし共通しているのは、西洋のデミグラスソースを白米に合うように日本人が独自にローカライズしたという点だ。この出自の違いこそが、すべての出発点である。