ネット上やSNSでは「レジで裾上げを頼んだら即座に断られた」という体験談が定期的に拡散されます。なぜ、競合他社が当たり前に提供している丈詰めサービスを、アパレル流通大手であるしまむらは頑なに導入しないのでしょうか。その背景には、小売流通業界で「しまむらモデル」と称賛される緻密な経営哲学とコスト構造が存在します。
最大の要因は少人数オペレーションによる徹底的な人件費の圧縮です。しまむらの売場面積は平均して約300〜400坪と広大ですが、平日のフロア運営はわずか数名のパート・アルバイトスタッフで回されています。もし裾上げサービスを常設すれば、採寸技術やミシン縫製の技能訓練を施した人員を常駐させる必要が生じ、人件費と設備投資が跳ね上がります。
ユニクロのように自社企画・大量生産を行う単一型SPAと異なり、しまむらは「多品種少量仕入れ」による売り切り型ビジネスを展開しています。1アイテムあたりの粗利益を極限まで削り、誰でも手に取れる適正価格を提供することを最優先しているため、付加価値としての作業コストを切り離す判断を下しています。現場で「断られる」という体験は、消費者が受ける手厚いサービスと引き換えに、圧倒的な商品安値を享受するための必然的なトレードオフといえます。