伊東の街を歩くと、飲食店の軒先やのぼり旗に掲げられた「うずわ」という独特の響きを目にします。この聞き慣れない名前の魚は、標準和名をソウダガツオ(宗田鰹)、特に伊東周辺で水揚げされるマルソウダを指す地方名です。背中の渦巻き状の黒い斑紋が「渦輪(うずわ)」に見えることから、伊豆沿岸の漁師たちが親しみを込めて呼び習わしてきました。
宗田鰹と聞けば、多くの人は蕎麦の出汁に使われる「宗田節」を連想するはずです。一般的な市場において、ソウダガツオが生食用の刺身として全国流通することはまずありません。その決定的な理由は、血合いの割合が魚体全体の20〜30%に達し、水揚げ直後から急速に酸化と鮮度劣化が進む点にあります。
水産関係者の取材データによると、ソウダガツオの体内には遊離ヒスチジンが豊富に含まれており、温度管理や締め処理を誤ると、食中毒の原因物質であるヒスタミンが瞬く間に生成されます。鮮度の落ち足の早さは一般的な本カツオやマグロの比ではなく、「朝獲れたものをその日の昼までにさばいて食べる」という超短時間のコールドチェーンが完結する伊東港至近の環境があって初めて、刺身やたたきでの安全な提供が成立します。