実写映画化が発表された当初、原作ファンの間では「堤真一では格好良すぎるのではないか」という強い懸念の声が上がっていました。東野圭吾氏の原作小説における石神哲哉は、以下のように描写されていたためです。
- 体格:柔道で鍛え上げたずんぐりとした体躯、太い首、丸顔。
- 風貌:頭髪は薄く後退し、実年齢(30代前半)よりも遥かに老け込んで見える風采の上がらない男。
- 印象:世俗的な魅力や清潔感とは無縁で、周囲から「達磨(ダルマ)」とあだ名される風貌。
しかし、撮影現場に入った堤真一氏は、この外見的ギャップを演技設計によって根底から覆しました。公式インタビューや当時の制作ノートによると、堤氏は自ら髪に白髪を散らし、前髪を乱雑に垂らして地肌を意識させるスタイリングを提案。さらに、肩を極端にすぼめた「猫背」の歩行姿勢を維持し続け、冬の重いコートに身を包んで足元を擦るように歩く身体表現を編み出しました。
劇中で石神が視線を正面に向ける瞬間は極めて限られています。常に他人の視線を避けるように斜め下を見つめ、伏し目がちに呟く佇まいは、社会から拒絶され自己を透明化させて生きてきた男の孤独そのものでした。原作の持つ「無骨な異形さ」を、堤氏は「乾ききった生活臭と底知れぬ哀哀」へと昇華させ、結果として原作者の東野圭吾氏をして「映画を観て深く感動した」と言わしめるほどの説得力を生み出したのです。