ドラマ放送時に日本中で「五代ロス」という社会現象を巻き起こしたディーン・フジオカさん演じる五代友厚。劇中ではあさの精神的支柱であり、ほのかな慕情を感じさせる演出が視聴者の胸を打ちましたが、歴史学的な客観証拠を見る限り、二人の間に特別な男女の情愛があったことを示す一次資料は存在しません。
史実における五代友厚は、大阪経済の復興を一手に担った伝説のフィクサーであり、加島屋にとっても大阪財界を再建する上での偉大なる先達でした。浅子自身、五代の先進的なビジョンや行動力から多大な薫陶を受け、実業家としての視野を広げたことは間違いありません。しかし、当時の浅子は加島屋の再建と炭鉱の現場仕事に文字通り命を削っており、色恋に興じる余白など皆無でした。ドラマの演出は、近代の扉を開けた二人の傑物の共鳴を、視聴者が共感しやすい形に昇華させた見事なフィクションと言えます。
一方、夫・広岡信五郎との関係こそ、現代の視点で見ても驚嘆に値するパートナーシップでした。玉木宏さんが演じた白岡新次郎と同様、信五郎は謡曲や茶の湯を好む風雅な人物で、自ら最前線でそろばんを弾くことは好みませんでした。しかし、彼は妻の卓越した商才を誰よりも早く見抜き、決して嫉妬したり束縛したりすることなく、全幅の信頼を置いて後方支援に徹しました。
さらに注目すべきは、側室である小石カメの存在です。浅子は一人娘の亀子を出産したものの、当主の跡継ぎ問題に直面しました。そこで浅子自らが女中頭だったカメを見染め、信五郎の側室として迎え入れたとされています。カメは信五郎との間に一男三女を産みましたが、浅子はその子どもたちを我が子同然に可愛がり、立派に育て上げました。ドロドロの愛憎劇とは無縁の、加島屋の「家」を存続させるための高度に機能的な家族関係がそこには構築されていたのです。