映画ファンの間で日常的に交わされる「世界三大国際映画祭 違いはどこにあるのか」という問いに対し、国際映画製作者連盟(FIAPF)公認のコンペティション規約と各映画祭の歩みを紐解くと、極めて対照的な性格が見えてきます。開催時期、都市の地政学的背景、そして併設されるフィルムマーケットの規模によって、集まる作品の性質は大きく枝分かれしています。
まず、毎年5月に開催されるフランスのカンヌ国際映画祭 パルムドール(最高賞・黄金のシュロ賞)は、名実ともに映画界の頂点に君臨する栄誉です。最大の特徴は、世界最大の映画見本市「マルシェ・デュ・フィルム」を併設し、世界中から約1万5,000人規模の映画買付人や配給会社が集結する点にあります。芸術的な尖鋭さと世界配給を見据えた商業的スケールが奇跡的なバランスで融合した作品が選ばれる傾向にあり、フランス国内の劇場公開ルール(劇場公開から配信開始までの猶予期間を義務付けるメディア・クロノロジー)を厳格に守る姿勢でも知られています。
対して、1932年に創設された世界最古の歴史を誇るヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞(最高賞・サン・マルコ広場の獅子)は、8月下旬から9月上旬のリド島を舞台に、純粋な映像美学と作家主義を貫きます。カンヌに比べてNetflixやApple TV+などのストリーミング配信作品に対しても極めて寛容であり、いち早く『ROMA/ローマ』に金獅子賞を授与した実績を持ちます。秋口という開催時期の絶妙さから、米国の賞レース(アカデミー賞)へ直結する登竜門としてのブランディングにも成功しており、近年はハリウッドメジャーのスター監督たちがこぞってプレミア上映の場に選んでいます。
そして、毎年2月の真冬のドイツで開催されるベルリン国際映画祭 金熊賞(最高賞)のアイデンティティは、徹底した「政治性」と「市民への開放」にあります。東西冷戦下の西ベルリンで誕生した歴史的背景から、移民、戦争、マイノリティの権利、格差社会といったアクチュアルな社会問題を鋭くえぐる骨太なドキュメンタリーやインディペンデント作品が高く評価されます。また、業界関係者だけでなく一般市民向けに40万枚以上のチケットが販売される「世界最大の一般参加型映画祭」としての熱気も、他の2祭にはない大きな魅力です。