ネットの掲示板やSNSでは、「塩を塗る激痛は悪霊退散の儀式」「涙を流しながら耐えた後の快感が癖になる」といった投稿が散見されます。なぜ人間は、これほど苦痛を伴う治療法に惹かれ、効果があると信じ込んでしまうのでしょうか。そこには日本社会に根深く存在する心理的バイアスが関係しています。
行動経済学および心理学では、これを「努力正当化効果(Effort Justification)」と呼びます。人間は「多大な苦痛や犠牲を払ったのだから、それに見合う大きな見返りがあるはずだ」と無意識に自分の認知を歪める傾向があります。激痛に耐えたという過酷な体験そのものが、「これだけ痛かったのだから絶対に効いている」という確信バイアスへと変換されるのです。
さらに、昭和・平成の根性論文化に象徴される「良薬は口に苦し」「痛みに耐えてこそ強くなる」という身体観が、民間療法の過激化を後押ししてきました。しかし、現代医学において「不必要な苦痛を耐えること」に治療的価値は一切ありません。傷を治すための生体反応を応援するどころか、過度なストレスは交感神経を緊張させ、毛細血管を収縮させて血流を悪化させ、創傷治癒を妨げる要因にしかなりません。