「本当に神社の奥底に本物の剣があるのか」という問いに対し、歴史学者や神職の多くは一様に「熱田神宮に鎮座している」と答える。だが、それを肉眼で確認した者は誰ひとりいない。非公開が徹底される最大の理由は、神道における「神体は人の目に触れさせてはならない」という根幹の禁忌にある。見るという行為自体が冒涜とみなされるのだ。
歴史上、ごく稀に中身を覗き見ようとした記録が残されている。江戸時代の書物『玉珎拾遺』によれば、江戸初期に熱田神宮の神職数名が密かに社殿の建て替えに乗じて箱を開け、神体を目撃したという。そこには紫の雲が立ち込め、長さ80センチほどの青銅色の剣が横たわっていたとされるが、証言した神職たちはその後、次々と怪死したと伝えられる。祟りの真相はともかく、このおどろおどろしい伝承こそが、非公開の原則をより強固なものへと変えた。