祇園祭において、かつては数ある山鉾にそれぞれお稚児さんが乗っていた。しかし現在、人間に代わって人形を乗せる鉾が大半となるなか、唯一「生きた人間」としての稚児を立て続けているのが長刀鉾である。この主役を決めるプロセスは、決して公募によるものではない。
主導権を握るのは長刀鉾保存会だ。毎年4月から5月にかけて、保存会内部で極密裏に候補者の選定が進められる。選ばれる少年の条件は極めて厳格だ。まず年齢は8歳から10歳程度の男子。そして何より重視されるのが、家柄の格調高さと、数千万円とも言われる莫大な神事費用を自前で負担できる財力である。八坂神社の氏子であり、京都を代表する老舗企業の跡取り息子が選ばれるケースが大半を占めるのは、そうした現実的な背景があるからにほかならない。
さらに、公益財団法人祇園祭山鉾連合会などの関係者によれば、単に裕福なだけでは選ばれないという。家族全員が健康的であり、神職を務めるにふさわしい清廉な生活様式を守っているかが徹底的に確かめられる。厳密な意味で「神の使者」に選出された瞬間から、少年とその家族の生活は一変することになる。