ボローニャの路地裏にある小さな工房を訪れると、トントンと静かに響く木音が耳に飛び込んでくる。使われているのは「マッタレッロ」と呼ばれる長い木製の伸ばし棒だ。職人たちはステンレスやプラスチックの道具を一切使わない。木肌の自然な摩擦と温もりだけが、卵をたっぷり含んだ黄色い生地に命を吹き込む。
「生地と対話するのよ。今日は風が強いから、いつもより少し優しく伸ばさないと生地が風邪を引いてしまう」と、この道50年のベテラン職人は笑う。機械で圧延された生地は均一で滑らかすぎるが、手打ちの生地には微小な空泡と不均一な気泡が残る。この「不均質さ」こそが、噛んだ瞬間の歯ごたえと小麦本来の香りを最大限に引き出す要素となっている。