カツオ一本釣りを語る上で外せない聖地が、高知県中土佐町久礼(くれ)です。「鰹乃國(かつおのくに)」を自認する中土佐町では、古くから土佐藩の財政を支えた一本釣りの伝統が息づいており、久礼漁港には日帰りでカツオを釣り上げて帰港する「日戻りカツオ」の文化が今なお色濃く残っています。
中土佐町の一本釣りが別格とされる理由は、その圧倒的なスピード感にあります。夜明け前に出港し、土佐湾沖の黒潮牧場(人工浮魚礁=パヤオ)周辺などで釣り上げたカツオを、その日の昼過ぎには港へ持ち帰る。一切冷凍されず、死後硬直が始まる前後の究極の鮮度で市場に並ぶカツオは、「タタキに塩を振るだけで魚臭さが微塵もない」と全国の美食家を唸らせ続けています。
しかし、2026年現在の一本釣りを取り巻く環境は、かつてない転換期を迎えています。水産庁および水産研究・教育機構が発表する最新の資源動向によると、地球規模の海洋温暖化に伴う海水温の上昇と、長期化する「黒潮大蛇行」の影響により、カツオの北上回遊ルートが沖合へと大きくシフトしています。
従来の沿岸寄りルートをカツオが通らなくなったことで、沿岸の小型一本釣り船が魚群に遭遇する難易度が急上昇しており、回遊時期のズレ(春の初ガツオ、秋の戻りガツオの漁期変動)が常態化しています。さらに、熱帯水域における海外巻き網船による未成魚の大量捕獲に対する懸念も根強く存在します。
こうした逆風の中、高知県をはじめとする一本釣り産地では、「持続可能な一本釣りブランドの国際認証取得」や、魚体一匹ごとにQRコードを付与して釣り上げ日時・漁船名を追跡できるトレーサビリティの導入など、単なる「量」から「徹底した高付加価値化」への構造転換が進められています。