はちみつが危険視される根本的な理由は、土壌や自然界に広く存在するボツリヌス菌(Clostridium botulinum)にあります。大人がボツリヌス菌の芽胞(硬い殻に覆われた細菌の休眠状態)を摂取しても、発達した腸内細菌叢(腸内フローラ)の働きと胃酸によって発芽・増殖が抑えられ、毒素を出すことなくそのまま体外へ排出されます。
ところが、生後1歳未満の乳児は消化器官が極めて未熟であり、腸内細菌のバランスもまだ十分に形成されていません。そのため、経口摂取されたボツリヌス菌の芽胞が腸管内で発芽し、爆発的に増殖して自然界最強クラスの神経毒素(ボツリヌス毒素)を産生してしまうのです。これが「乳児ボツリヌス症」の直接的な発症原因です。
毒素は神経と筋肉の接合部をブロックし、全身の筋力を麻痺させていきます。親が最初に気づくべき異変は「3日以上続く頑固な便秘」であり、続いて母乳やミルクを吸う力が目に見えて衰える哺乳力低下、声がかすれて弱々しく泣く、首のすわりが急激に悪くなるといった筋緊張低下(いわゆるフロッピーインファント状態)へと進行します。重症化すると自発呼吸が困難になり、死に至る危険を伴います。
乳児ボツリヌス症の潜伏期間は通常3日から30日(平均して10日前後)と幅が広く、摂取直後に症状が出ないため、初期の体調不良を見落としやすい点も医療現場で警戒されています。