金具屋の象徴である「斉月楼(さいげつろう)」と「大広間」は、平成15年(2003年)に国の登録有形文化財に登録されました。完成は昭和11年(1936年)。長野電鉄の開通に伴い観光地化が進むなか、六代目当主が日本中から選りすぐりの名工・宮大工を招き、惜しみなく資材を投じて築き上げた木造数奇屋造りの傑作です。
斉月楼の外観は、釘を一切使わずに組まれた精緻な木組みと、各階ごとに異なる庇(ひさし)の出幅によって、複雑で立体的な陰影を生み出しています。内部に足を踏み入れると、客室ごとに異なる「擬似屋外空間」の演出が施されており、廊下を小路に見立て、各部屋の入り口に本物の瓦屋根や門扉をあしらうなど、遊び心あふれる贅沢な空間設計が広がっています。
圧巻は、木造建築としては日本有数の広さを誇る130畳敷きの「大広間」です。一本の柱も使わずに屋根を支える「トラス構造」を採用し、格天井(ごうてんじょう)には信州の動植物や名所が色鮮やかに描かれています。毎夕、宿泊者限定で開催される名物「金具屋文化財巡り(館内ツアー)」では、当主自らが館内の歴史や宮大工たちの知られざる仕掛け・隠された意匠を約30分にわたって軽妙な語り口で解説しており、宿泊者の満足度を押し上げる最大の要因となっています。