福島県白河市双石(くらぼね)の静寂な集落。鳥のさえずりが響くのどかな風景の中、異様な熱気を放つ一角が「とら食堂」です。創業は1969年(昭和44年)。初代店主である故・竹井寅次氏が屋台から立ち上げ、試行錯誤の末に生み出した手打ち麺と澄んだ醤油スープの組み合わせこそが、今日全国に知られる白河ラーメンの原点とされています。
白河観光ガイドの公式記録や地域史によると、竹井寅次氏は粉の配合から麺打ちの技術、スープの製法に至るまで独自の工夫を重ね、地域の食文化を大きく塗り替えました。その意志を受け継ぐ二代目・竹井和之氏のもと、店は単なる人気店にとどまらず、全国から修業希望者が集う「とら系ラーメンの梁山泊」へと進化を遂げたのです。
平日であっても開店前から数十台の車が駐車場を埋め尽くす背景には、現代の機械製麺では決して再現できない「手仕事の絶対的な純度」があります。毎朝職人が気温や湿度を見極めながら粉をこね、青竹を用いて体重をかけてリズミカルに打ち上げる手打ち麺は、気泡を抱き込んだ多加水熟成麺特有のモチモチ感と、スープを絶妙に持ち上げる細かなちぢれを生み出します。一口すするだけで口の中で麺が躍るような弾力は、半世紀以上にわたる技術の蓄積がもたらす唯一無二の食感です。
さらに、地元白河の五箇小学校の児童が社会科見学で訪れるなど、地域社会との深い結びつきを保ち続けている点も見逃せません。観光地化に流されることなく、地元に根を張りながら妥協のない一杯を愚直に作り続ける姿勢が、全国のファンの信頼を強固にしています。