ドラマ『医龍』において、阿部サダヲが演じた役名は荒瀬門次。明真大学付属病院の麻酔科医であり、外科医が要求する極限状態のバイタルコントロールを完璧にこなす「バチスタ手術成功のための最後のピース」として描かれました。
初登場時の荒瀬は、白衣を着ずに派手な柄シャツをまとい、昼間からバーに入り浸る自堕落な人物でした。「1本のオペにつき100万円」を要求し、金の亡者のように振る舞う荒瀬は、一見すると救いようのない快楽主義者に見えます。しかし、その内面にはかつて病院の教授陣による非人道的な論文作成のための麻酔実験に加担させられ、多くの患者を死に追いやったという深いトラウマと罪悪感が渦巻いていました。
朝田龍太郎(坂口憲二)との出逢い、そして愛する女性・香香(シャンシャン)の命をチームドラゴンに救われたことをきっかけに、荒瀬は真の医療従事者としての魂を取り戻します。冷笑的なペルソナの下に隠された熱い情熱と、自らの命を削るようにして患者を守り抜くプロフェッショナリズム。この極端な二面性を、阿部サダヲはわずかな視線の揺らぎや声の抑揚で見事に表現し切りました。
荒瀬を語る上で欠かせないのが、患者に麻酔を導入する瞬間のカウントダウンと、最後の「7、6、5、4、3、2、1……落ちろ」という決めゼリフです。単なる決め台詞にとどまらず、患者の恐怖を一瞬で断ち切り、無事に生還させるという「生への執念」が込められたこの言葉は、医療ドラマ屈指の名シーンとして視聴者の心に刻まれました。