大衆文化において「座頭」の名を不朽のものとしたのが、子母澤寛(しもざわ かん)の短編小説を原作とし、勝新太郎が主演した映画シリーズ『座頭市』です。
原作のモデルとなったのは、子母澤寛が取材の過程で下総国(現在の千葉県周辺)の古老から聞き書きした、「市(いち)」という実在の盲人に関する短い記録でした。史料によると、その人物は盲目でありながら居合抜きの達人であり、博徒の用心棒のような裏稼業に身を置いていたと伝えられています。
勝新太郎が演じた座頭市は、単なる障害者像を根底から覆すものでした。普段は按摩を生業として腰を低くし、健常者から侮蔑されても「あっしのような盲(めくら)の座頭が……」とへりくだりながら、理不尽な暴力や巨悪に対しては仕込み杖の一閃で圧倒する。この痛快なアンチヒーロー像は、日本国内にとどまらず海外の映画界にも計り知れない影響を与えました。
当時の映画関係者や批評家による手記でも、「勝新太郎が見せた仕込み杖の居合術は、弱者が過酷な封建社会を生き抜くための武器のメタファーであった」と高く評価されています。劇中で市が「座頭」と呼ばれるのは、彼が当道座の末端に身を置き、按摩として各地を漂泊していた身分背景を克明に物語っています。