本作が大人向けの絵本セラピーや心理学の文脈で再評価されている最大の理由は、「条件付きの自己肯定感」と「心理的バウンダリー(境界線)」の問題を鋭く抉り出している点にあります。
現代社会における人間関係を観察すると、SNSのフォロワー数やいいねの数、あるいは職場での「役に立つ人間でいなければ居場所を失う」という強迫観念に苦しむ大人が少なくありません。キツネが自ら「1時間100円」という値札をぶら下げた姿は、他者から拒絶されるのを恐れるあまり、自分を商品化して関係性をコントロールしようとする現代人の防衛機制そのものです。
それに対し、オオカミが取った行動は「取引の無効化」でした。「お前は役に立つから友達なのではなく、お前だから友達なのだ」という無条件の受容(無条件の肯定的配慮)を示したオオカミの態度は、キツネの歪んだ防衛機制を一瞬で解きほぐしました。大人が本作を読んだときに覚える涙の正体は、自分自身が長年抱えてきた「何者かでなければ愛されない」という呪縛からの解放感に他なりません。