成蟜の生涯における最大の見せ場であり、涙なしには読めない結末を迎えるのが、単行本第34巻から第35巻にかけて描かれた「屯留の変」です。この戦いは、趙軍の侵攻に対して成蟜自らが出陣を志願したことから幕を開けました。当時、朝廷内で圧倒的な権力を握っていた相国・呂不韋(りょふい)の勢力を削ぐため、成蟜は自らの影響力を行使して前線の士気を高め、軍功を挙げることで嬴政の王権を強固にする狙いがありました。
しかし、そこには呂不韋陣営が周到に張り巡らせた罠が存在していました。屯留の代官・蒲鶮(ほかく)が趙軍の内通者として暗躍し、成蟜軍を城内に誘い込んだ上で幽閉。成蟜の名義を騙って秦国への反乱を宣言させたのです。これが「成蟜の反乱」と朝廷に伝わったクーデターの真相でした。
幽閉された成蟜は、人質に取られた妻・瑠衣を救出するため、わずかな手勢とともに脱出を試みます。地下牢から瑠衣のもとへと向かう道中、圧倒的多数の敵兵を相手に、自ら剣を振るって活路を開く成蟜の姿は、かつて部下にすべてを丸投げしていた軟弱な王弟の面影を完全に払拭していました。
成蟜の直接の死因は、首謀者である蒲鶮との直接対決で負った致命傷です。蒲鶮の卑劣な急襲を受け、腹部や胸部に多数の深手を負いながらも、成蟜は執念で蒲鶮を一刀両断。現場に駆けつけた飛信隊の信が目撃したのは、血まみれになりながらも瑠衣をその腕に抱き、静かに息を引き取ろうとする王弟の気高い姿でした。