『燕子花図屏風』を丹念に観察すると、美術史の研究者たちを驚かせたある重要な技術的秘密が浮かび上がってきます。それは「型紙(かたがみ)」の転用です。
屏風に描かれた幾つかの花弁や葉のグループは、輪郭や角度が完全に一致しており、呉服の友禅染などに使われる型紙を下絵として複数箇所に反復配置(リピート)していることが判明しています。現代のグラフィックデザインにおける「パターンのコピペ&リミックス」を、光琳は300年以上前の手描き絵画で実践していたのです。
この反復配置が、画面全体に規則的でありながら有機的な「音楽的テンポ」を生み出します。さらに右隻(右側の屏風)では花々が高く伸びやかに密集し、左隻(左側の屏風)では群れが中央から下部へと低く流れるように分散するアシンメトリー(左右非対称)の構成を採用。屏風を立てて折ったとき、折り目の角度によって花々が前後に揺らめき、まるで本物の湿地を風が吹き抜けるような錯視効果が完成します。