『それいけ!アンパンマン』の原作者であるやなせたかしは、単なる勧善懲悪の物語を好まなかった。フレーベル館から刊行された絵本をはじめ、数々の原作書籍において、ばいきんまんやドキンちゃんは完璧な悪として描かれていない。お腹が空いている者に顔を分け与えるアンパンマンに対し、欲望に忠実でどこか憎めない悪役たちは、人間が持つ弱さや愛らしさの象徴でもあった。
やなせ氏の描いたドキンちゃんは、自分の欲求に素直でありながらも、時には他者への思いやりを覗かせる非常に立体的なキャラクターだ。バイキンマンが困っているときにさりげなく手を差し伸べたり、時にはアンパンマン側に協力したりする柔軟さは、やなせ哲学が息づいている証拠と言えるだろう。