からくり屋敷の遺伝子を辿るなら、滋賀県に現存する実本物、甲賀流忍術屋敷を避けて通ることはできない。望月出雲守の旧邸として知られるこの建物は、観光用に後から造られたテーマパークとは一線を画す。外観はどこにでもある質素な農家だ。しかし内部は、外部からの襲撃を徹底的に迎撃・殲滅するための殺人トラップが凝縮された防衛要塞にほかならない。
急勾配すぎる「縄ばしご」の隠し階段、踏めば即座に侵入者を感知させる「うぐいす張り」、そして突如として視界から消える「どんでん返し」。これらは戦国大名たち、とりわけ徳川家康の天下取りを影で支えた服部半蔵率いる伊賀・甲賀のネットワークが、いかに熾烈な情報戦とゲリラ戦を生きていたかを雄弁に物語る。彼らにとって屋敷は寛ぎの場ではなく、いつ襲われるか知れぬ最後の防衛線だった。忍術・歴史文化の精髄は、この張り詰めた緊張感の中にこそ宿っている。