警察庁が管理する極秘の指名手配ファイル。そこには、数千件に及ぶ目撃情報と、長年にわたって蓄積された捜査網の記録が収められている。警視庁公安部は当時、全国の潜伏先候補や支援者組織を網羅的に追跡していた。しかし、男は組織の連絡網から完全に離脱していた。組織的な手助けを受けず、単身で潜伏生活へ没入していたことが、結果として公安の捜査網を空転させ続けた。
「警察のデータベースに載っていたのは、半世紀前の若い青年の写真だけだった」。捜査に関わった元幹部は匿名を条件に口を開いた。「顔認証システムも、DNA型鑑定も、彼が病院に飛び込み、自ら名を明かすまでは何の役にも立たなかった」。捜査資料に記された空白の50年間。そこには、技術的進化を遂げた最先端の警察機構が、昭和のアナログな潜伏手法によって翻弄され続けた歴史的皮肉が刻まれていた。