インターネット上の掲示板やSNSでは、秋に伊佐沼の水位が急激に下がる光景を見て「水抜きによって魚が死に、環境破壊につながっているのではないか」「鳥たちの水場を奪っている」といった誤解や懸念の声が散見されます。しかし、これは自然保護の観点における典型的な認識不足です。
農業用水路としての機能を維持するための「落水」は、歴史的に日本の里地里山で行われてきた伝統的な水辺管理の一環です。水を抜いて底泥を大気や日光に晒すこと(「池干し」「沼干し」効果)は、ヘドロの有機物を好気性分解させ、水質浄化を促進し、病原菌を抑制する極めて重要なリフレッシュ効果を持っています。
もし年中満水状態を維持し続ければ、水底は酸素不足(貧酸素状態)に陥り、底生生物は死滅して水質は悪化します。人工的に水位を変動させる管理サイクルが存在するからこそ、泥中の微小生物が爆発的に繁殖し、それを目当てに世界中を旅する渡り鳥が集まる生態系が保たれているのです。人為的なインフラ維持と野生動物の生存戦略が奇跡的に合致した共生モデルこそが、伊佐沼の真の姿です。