炎色反応の仕組みは、原子物理学および量子化学の基礎理論に直結しています。夏祭りの夜空を彩る打ち上げ花火の多彩な色彩も、すべてこの原理を応用して作られています。
原子は通常、最もエネルギーの低い安定な電子配置である「基底状態」にあります。ここにバーナーの炎などの熱エネルギーが加わると、外殻の価電子がエネルギーを吸収し、より外側のエネルギー準位が高い電子軌道へとジャンプします。この不安定な状態を「励起状態(れいきじょうたい)」と呼びます。
励起された電子は極めて短時間(10ナノ秒程度)で再び元の安定な基底状態に戻ります。この際、高エネルギー軌道と低エネルギー軌道の「エネルギーの差($\Delta E$)」が、光エネルギー(光子)として外部に放出されます。プランクの法則($\Delta E = h\nu = \frac{hc}{\lambda}$)により、エネルギー差が大きいほど波長($\lambda$)は短く青紫側に、エネルギー差が小さいほど波長は長く赤色側になります。
各元素は原子核の陽子数や電子配置によって軌道固有のエネルギー差が完全に決まっているため、放出される光の波長も元素ごとに一意に固定されます。花火職人は、赤色には炭酸ストロンチウム、緑色には硝酸バリウム、黄色には炭酸ナトリウム、青色には酸化銅を火薬に調合することで、狙い通りの鮮明な光を生み出しているのです。