江戸時代の寿命データを精査して見えてくるのは、「昔の人は短命で不健康、現代人は長寿で健康的」という単純な二元論の危うさです。
現代の私たちは高度な医療体制、抗生物質、上下水道の整備によって「死なない環境」を手に入れました。しかしその反面、生活習慣病や運動不足、過剰な加工食品の摂取といった新たなリスクに晒されています。対して江戸の町人は、現代人から見れば極めて過酷な衛生環境にありながらも、1日平均で1万歩から2万歩を自然に歩き、発酵食品(味噌、醤油、ぬか漬け)を中心とした腸内環境に極めて優しい食事を摂っていました。
長寿を全うした徳川家康や貝原益軒が説いたのは、「自らの体を観察し、過食を避け、適度に体を動かす」という素朴ながら普遍的な自己規律でした。歴史のデータを額面通りに受け取って過去を侮るのではなく、厳しい淘汰圧の中で生き抜いた先人たちの知恵を再評価することこそが、情報過多な時代を生きる私たちに求められる姿勢です。