蜷川が亡くなって10年。演劇界を取り巻く環境は大きく変わった。ハラスメントに対する意識が高まり、かつてのような「怒号が飛び交う稽古場」は過去のものとなりつつある。それは業界の健全化という意味で正しい進化だ。しかし同時に、あの時代にあった「命がけの熱量」が薄れてはいないかという懸念も、演劇関係者の間では囁かれている。
小栗は近年のインタビューで、蜷川の指導についてこう振り返っている。「蜷川さんのやり方は、今の時代には受け入れられないかもしれない。でも、あの人が僕たちに求めていたのは暴力ではなく、表現に対する『絶対的な誠実さ』だった」。怒りの裏にあったのは、観客に対する責任と、妥協を許さないプロフェッショナルとしてのプライド。その魂の遺言は、形を変えて今も小栗の中に生き続けている。