本作の吹き替え版がアニメファンのみならずミュージカルファンからも絶賛される理由は、大人キャスト陣が吹き替えの枠を超えた「本気」のパフォーマンスを披露した点にあります。
死者の国でミゲルと出会うヘクター役の藤木直人は、自身も長年ミュージシャン活動を続けてきた経験が活きています。劇中でミゲルと歌う「ウン・ポコ・ロコ」では小気味よい掛け合いを披露する一方、娘のココに向けて歌う「リメンバー・ミー(ララバイ)」では、装飾を削ぎ落とした素朴で切ない歌唱を聴かせました。スタジオ関係者の証言によると、藤木直人は「ヘクターの歌は決してステージで聴かせるための上手な歌ではなく、愛する幼い娘だけのために捧げられた子守唄でなければならない」という意図を汲み取り、あえて掠れや息遣いを残すアプローチを取ったと語られています。
また、ミゲルの高祖母であるママ・イメルダを演じた松雪泰子にとって、本作は劇中での本格的な歌唱シーン初挑戦でした。劇中終盤で披露される「哀しきジョローナ」は、メキシコ伝統音楽の情熱と哀愁が入り混じる難曲です。彼女の持ち味である凛とした気品と、家族を一人で支えてきた母親の執念が声に宿り、初挑戦とは思えないドラマチックな名シーンを完成させました。
そして忘れてはならないのが、エルネスト・デラクルス役の橋本さとしです。劇団☆新感線出身でミュージカル界の重鎮である彼は、デラクルスのスター性と裏腹の狡猾さを大迫力のベルティング(地声の高音唱法)で見事に表現しました。オリジナル版の英語音声に引けを取らない骨太な響きは、作品の骨格を強固に支えています。