「毎日霧吹きで水をあげていたのに、まったく芽が出ずに終わった」――。ウェブ上の掲示板やSNSでは、しめじ栽培キットに対する切実な挫折談が数多く投稿されています。一部では「不良品をつかまされたのではないか」という極端な噂すら囁かれますが、専門機関や種菌メーカーへの取材取材を進めると、そこにはキノコの生態特性に対する根本的な誤解が横たわっている実態が浮かび上がってきます。
しめじ栽培で失敗する決定的な理由は、シイタケとぶなしめじにおける「原基(キノコの赤ちゃん)形成プロセス」の決定的な違いにあります。シイタケの菌床はブロックを水洗いして袋から出すだけで容易に発芽しますが、ぶなしめじなどのシメジ類は、菌床の表面に「赤玉土」を敷き詰める覆土(ふくど)処理を行わなければ、キノコの芽を形成するスイッチが入りません。
さらに、現代の高気密・高断熱住宅におけるエアコン環境もしめじにとっては大きな障壁です。冬場にしめじを育てる際、人間にとって快適な室温20℃〜24℃のリビングに設置してしまうと、しめじの菌糸は「まだ子孫(キノコ)を残す環境ではない」と判断し、栄養成長のまま活動を停止してしまいます。芽出しを促すには、秋から初冬の冷え込みを模した10℃〜15℃前後の低温刺激が絶対に欠かせないのです。