文学賞のニュースを見る上で、知っておくと一段と面白くなる業界の“裏ルール”と誤解を是正します。
誤解①:「芥川賞と直木賞の両方を受賞した作家がいる?」
過去に両賞をダブル受賞した作家は史上誰一人として存在しません。芥川賞を受賞した作家は、その時点で「プロの文士」として文壇に公認されるため、以降は大衆小説を執筆して売れっ子になったとしても、新人・中堅を問わず直木賞の候補に挙がることは慣例上ありません。例外的に、過去に両賞へノミネート(候補作一覧入り)された作家は何名か存在しますが、両方を手中に収めた例は皆無です。
誤解②:「太宰治や村上春樹も受賞している名誉ある賞?」
実は、日本を代表する文豪の多くが落選や無冠の歴史を辿っています。太宰治は第1回芥川賞で次席となり、選考委員の佐藤春夫や川端康成に受賞を懇願する手紙を送ったエピソードは有名ですが、生涯受賞は叶いませんでした。世界的人気作家である村上春樹も、初期作品の『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』が芥川賞候補に挙がったものの受賞を逃しています。芥川賞を獲れなかったからといって、作家としての価値が劣るわけでは決してありません。
誤解③:「選考委員が勝手に候補作を決めている?」
選考委員が最初からすべての雑誌や単行本を読破して選んでいるわけではありません。日本文学振興会に設置された「予選委員会(文芸編集者や下読み担当者)」が、半年間に発表された膨大な作品の中から厳選した4〜6作程度を「ノミネート候補作」として絞り込みます。選考委員はその厳選された候補作のみを精読し、本選考会当日の議論に臨みます。