肉吸いを語る上で絶対に外せないのが、サイドメニューである「小玉(しょうたま)」とのペアリングである。小玉とは「卵かけご飯(小)」を指す千とせ独特の隠語的メニューであり、肉吸いを注文する常連客の実に9割以上がこのセットを注文する。
千とせの肉吸いには、標準で出汁の余熱で絶妙な半熟状に仕上げられた卵が1個沈んでいる。客はまず、炊きたての白米に生卵が落とされた「小玉」に、卓上の専用だし醤油を回しかけてかき混ぜる。そして、昆布と鰹、ウルメ節から引かれた澄んだ黄金色の出汁を一口啜り、牛肉の脂の甘みを噛み締める。続いて、濃厚な卵かけご飯を口に放り込むのだ。
この瞬間に生じるのは、単なる主食と汁物の関係を超えた「多重奏の脂・出汁・アミノ酸のシナジー」である。肉吸い側の半熟卵を崩して肉に絡め、小玉側の生のトロトロ感と対比させる。出汁をすくい、ご飯にかける「出汁茶漬け風」の味変を楽しむ。炭水化物を抜いたはずの肉吸いが、卵かけご飯という最高の炭水化物パートナーを得ることで完成するというパラドックスこそ、大阪ミナミが誇るB級グルメの粋である。