多くの人が陥りがちな最大の誤解は、「痒み止めを塗ればそのうち治まる」という過信です。しかし、肝臓由来の痒みに市販薬が効かない原因は明快です。一般的なかゆみ止めはヒスタミンという炎症伝達物質を阻害する仕組みですが、肝機能不全による痒みは前述のとおり胆汁酸の蓄積や中枢性オピオイド受容体の乱れが主因であるため、作用点がまったく噛み合いません。
効かない薬を漫然と使い続けて放置すると、水面下で肝破壊が猛烈な勢いで進行する危険があります。特に注意すべきは劇症肝炎の前兆となる症状です。激しい痒みに続いて、急速な全身の黄疸、手のひらが細かく震える「羽ばたき振戦」、意識が朦朧とする肝性脳症が現れた場合、死に至るリスクが極めて高くなります。
病態が進行した肝硬変に伴う皮膚そう痒症の治療薬としては、現在では中枢のオピオイドκ受容体を選択的に刺激して痒みを鎮める「ナルフラフィン塩酸塩」などが臨床現場で処方されています。自己判断による市販薬の乱用は、肝臓への代謝負担をさらに増やしてしまうリスクがある点に注意が必要です。