ジャンルによる呼び分けの背景には、それぞれの音楽が育んできた歴史的背景とファンカルチャーの約束事(プロトコル)が存在します。
クラシック音楽において「ライブ」という表現がほぼ使われない理由は、鑑賞の主眼が「作曲家が残したスコア(楽譜)の完璧な再現と指揮者・演奏者による解釈の提示」にあるからです。客席は私語を慎み、演奏中は咳払いすら憚られるほどの極限の集中状態で音に耳を傾けます。ここでは、演奏者と観客の役割は明確に分離されており、調和された芸術を鑑賞する場として「コンサート」という呼称がもっとも相応しい威厳を持ち続けます。
これに対し、ロックやポップス、とりわけアイドルシーンでは、観客は単なる鑑賞者にとどまりません。ペンライトの光で客席を染め上げ、決められたコールを叫び、手拍子やジャンプによって演者のパフォーマンスをブーストさせる「双方向の共創関係」が前提となります。2000年代以降のアイドルカルチャーにおいて、かつて主流だった「〇〇 コンサート事務局」といった公式名称から「LIVE TOUR」表記へと急速に移り変わったのも、ファンが空間演出の重要な構成要素として組み込まれるようになった時代の変化を象徴しています。