御誕生寺がなぜこれほどまでに猫たちに寄り添う場所となったのか。その原点を理解するには、開山した板橋興宗(いたばし こうしゅう)禅師の類稀なる経歴と、その慈悲深い人間性に触れる必要があります。
板橋禅師は、曹洞宗の最高位である管長、そして大本山總持寺の貫首(住職)を務めた、仏教界を代表する高僧でした。大本山の重責を退いた後、曹洞宗の太祖・瑩山紹瑾禅師の誕生の地である福井県武生の地に創建したのが御誕生寺です。本来は若き修行僧(雲水)たちが禅の修行に打ち込むための厳格な専門僧堂として建立されました。
転機が訪れたのは寺の創設当初のことでした。境内へ続く山道に、段ボール箱に入れられた4匹のへその緒がついた子猫が打ち捨てられていたのです。極寒の北陸で凍え死ぬ寸前だった小さな命を前に、板橋禅師は迷うことなく保護を決断しました。禅師は当時の心境について、手記や法話の中で次のように述懐しています。
「どんな小さな命であっても、仏の命を生きている。目の前で消え入りそうな命を見捨てることは、仏道に背くことである」
この慈悲の行動が噂を呼び、寺には次々と猫が遺棄されるという悲惨なモラルハザードも発生しました。しかし、禅師と雲水たちは決して投げ出さず、修行の合間を縫って自ら猫の糞尿を片付け、夜通しミルクを与え、傷ついた猫を動物病院へ走らせました。板橋禅師は2026年に惜しまれつつ世を去りましたが、その精神は現住職や弟子たち、そして寺を支えるボランティアスタッフの手によって2026年の今も脈々と息づいています。