特訓の主舞台となったのは、荒川氏の自宅の一室でした。六畳間ほどの畳敷きの部屋は、王氏が何千回、何万回と踏み込みを繰り返したことで畳の表が激しく毛羽立ち、最終的には擦り切れて床板が露出するほど摩耗したといいます。素振りを繰り返す王氏の手のひらは幾重にもマメが破れて血に染まり、バットや刀の柄に血糊がこびりつく凄惨な光景が日常でした。
中でも語り草となっているのが、真剣を使った「短冊切り(半紙切り)」の練習法です。天井から糸で吊るされた細長い短冊状の半紙を、日本刀の居合抜きの要領で横一文字に切り裂くという極限の稽古が行われました。
柔らかく揺れる半紙は、刀の刃筋がわずかでも斜めに傾いていたり、腕力で叩き切ろうとしたりすると、切れることなく風圧で逃げてしまいます。背筋を伸ばし、下半身の回転力を刃先に完璧に伝え、ブレのない水平なスイングスピードで一閃させて初めて、紙は音もなく真っ二つに裂けます。この「刃筋を通す」感覚こそが、投球の軌道にバットの芯を正確に衝突させるスイングプレーンの極致だったのです。
さらに荒川氏は、合気道開祖・植芝盛平氏の弟子であった経験から、武道の「気の流れ」「脱力と集中」「中心軸の意識」を打撃理論に直結させました。相手の力を利用して制する合気道の極意を打撃に応用することで、王氏は強烈な筋力に頼らずとも、驚異的なヘッドスピードと打球飛距離を生み出すメカニズムを体得していきました。