アルゼンチンの食卓を語る上で欠かせないのが、アルゼンチン料理の名物として世界に名を馳せる伝統料理の数々です。広大なパンパ(草原地帯)で育まれた肉文化と、家庭的な温もりが同居しています。
その筆頭が、国民的行事とも言えるアサード(肉料理)です。薪や木炭の熾火(おきび)を使い、骨付きの巨大な牛肉ブロックを数時間かけてじっくりと焼き上げます。味付けは基本的に粗塩のみ。余分な脂が落ち、凝縮された赤身肉本来の旨味をダイレクトに味わうのが流儀です。現地では刻んだパセリやニンニク、オレガノ、酢、油を合わせた万能ソース「チミチュリ」を添えて味の変化を楽しみます。
手軽なフィンガーフードとして愛されているのがエンパナーダです。小麦粉の生地で牛挽肉、玉ねぎ、ゆで卵、オリーブなどを包み、オーブンで香ばしく焼き上げるか油で揚げた具入りパイです。エンパナーダの作り方は地域によって特色があり、北部サルタ州ではスパイシーに、ブエノスアイレス周辺ではジューシーな肉汁を閉じ込める仕込みが好まれます。
さらに、イタリア移民がもたらした家庭の味ミラネサ(カツレツ)も見逃せません。薄く叩いた牛肉にパン粉をつけて揚げ焼きにしたもので、トマトソースとたっぷりのモッツァレラチーズ、ハムをのせてオーブンで焼いた「ミラネサ・ナポリターナ」は、大衆食堂(ボデゴン)の定番メニューです。
肉を焼き始める前の前菜として定番なのが、厚切りチーズを鉄板やグリルで表面カリカリ、中トロトロに焼き上げるプロボレータ(焼きチーズ)です。オレガノと唐辛子フレークを散らした香ばしいチーズは、パンに乗せて食べるだけで格別の味わいとなります。
一方、先住民の食文化を色濃く残すのが、トウモロコシや白インゲン豆、豚肉、ソーセージをじっくり煮込んだロクロ(伝統煮込み料理)です。毎年5月25日の五月革命記念日や7月9日の独立記念日といった祝祭日に、体を温め連帯を確かめ合う象徴的な一皿として食されています。