『かぐや姫の物語』に登場する帝という存在は、単なる歴史劇の登場人物やアニメのギャグキャラクターにとどまりません。彼が体現しているのは、現代社会の家庭や職場、恋愛関係にも蔓延する「善意を装った境界線侵犯(バウンダリー侵害)」の縮図です。
帝の最も恐ろしい点は、自らが加害者であるという自覚が微塵もないことです。「自分の愛を受け入れることが相手の救いである」「自分のような素晴らしい人間が気にかけてやっているのだから感謝するはずだ」という全能感は、現代のモラルハラスメント加害者や、子どもの人生を自分の所有物と勘違いする過干渉な親の心理構造と完全に一致します。自他の境界線が曖昧な人間が権力を持ったとき、どれほど他者の尊厳を破壊するかを、高畑監督はあの尖った顎と美しい声で見事に描き出しました。
本作を鑑賞する際のおすすめ・慎重になるべき人の判断基準
- 深く鑑賞することをおすすめできる人:
- 表面的な美談の裏にある人間のエゴや権力構造を鋭く考察したい人
- 歌舞伎由来のプレスコ方式による圧巻の声優演技、水彩画のような革新作画表現を堪能したい人
- 人間関係における「心理的境界線」やコミュニケーションの非対称性に関心がある人
- 鑑賞にあたって慎重になるべき人:
- 身勝手なスキンシップや同意なき身体拘束の描写に強い精神的嫌悪感・トラウマを持つ人
- 教科書的な『竹取物語』の「風雅で美しい古典の悲恋譚」をそのまま期待している人
- 起承転結が分かりやすくスカッとする勧善懲悪のファンタジーを求めている人