「やっちゃ場(やっちゃば)」は、漢字で「青物市場」や「蔬菜(そさい)市場」と表記される青果市場の口語表現です。魚類を扱う「魚河岸」と対をなす存在として、東京を中心とする関東圏で広く使われてきました。
言葉の由来については、江戸時代の市場で行われていた競り(せり)の掛け声に端を発するという説が定説となっています。荷主から委託された野菜や果物を素早く競り落とす際、競り人や仲買人たちが「やっちゃい、やっちゃい(安く売った、取引成立だ)」「やっちゃ、やっちゃ」と威勢のいい声を張り上げながらリズミカルに売買を成立させていました。この「やっちゃ」という独特のリフレインが市場全体の喧騒を象徴する言葉となり、やがて「やっちゃという声が飛び交う場所=やっちゃ場」と呼ばれるようになったのです。
民俗学や言語学の観点からも、この呼び名は極めて興味深い特徴を持っています。当時の青果物は鮮度が命であり、魚類以上に短時間で大量の商品を裁く必要がありました。長々とした価格交渉を省き、テンポよく指先と符牒(ふちょう:業界の隠語)で合意を形成する過程で、掛け声自体がひとつのリズム楽器のような役割を果たしていたと分析されています。つまり「やっちゃ場」という言葉そのものが、スピードと熱気が支配する市場の空気感そのものを表したオノマトペ的表現だったと言えます。