現場従事者を最も困惑させるのが、「溶接作業を行っている最中や直後にはほとんど自覚症状がない」という時間差のトラップです。溶接作業中に発生するアーク光には、強力な可視光線だけでなく、太陽光の数十倍から数百倍に及ぶ強度の紫外線(特に角膜に吸収されやすいUV-BやUV-C領域)が含まれています。この紫外線によって引き起こされる急性疾患が、医学的には「電気性眼炎」または「紫外線角膜炎」と呼ばれる病態です。
溶接アーク光で目が痛む理由は、眼球の一番外側にある「角膜上皮」が紫外線による火傷(日焼け)を負うプロセスにあります。紫外線に曝露された瞬間から細胞障害は始まっていますが、細胞が死滅して角膜の表面から脱落するまでにはおよそ6時間から12時間程度の潜伏期間を要します。日中の14時前後に「仮止めだから」と数秒間裸眼で光を見てしまった場合、細胞が剥がれ落ちて知覚神経の末梢が剥き出しになるタイミングがちょうど就寝中の午前1時〜2時に重なる計算になります。
角膜は人体の中でも神経終末が極めて密集している組織であり、擦り傷一つでも耐えがたい激痛を発します。細胞が広範囲に脱落した眼球は、まぶたの裏側と擦れ合うたびに激しい摩擦痛を引き起こします。これが「目の中に砂が入ったような異物感」「目を開けられないほどの羞明(しゅうめい:まぶしさ)」「あふれ出る大量の涙」の正体です。