住宅の出張解錠や修理を請け負うプロの鍵職人の証言を集約すると、住人の「自己流メンテナンス」がいかに事態を悪化させているかが浮き彫りになる。東京都内で鍵修理サービスを20年以上営むベテラン技術者は、近年の鍵事情について次のように現場の苦悩を語る。
「昔ながらのギザギザした鍵(ディスクシリンダー錠など)であれば、油を差してしまっても数カ月は持ちこたえることがありました。しかし、2000年代以降に防犯基準が強化され、現在の新築や改修で標準装備となっているディンプルキーのメンテナンス方法を誤ると、一発で鍵交換になるケースが急増しています。ディンプル錠はピンが上・左・右・斜めの複数方向から数十本配置され、その加工精度は100分の1ミリ単位です。油膜が少し埃を噛んだだけでピンがわずかに浮き上がり、鍵番号をまったく認識しなくなります」(都内鍵修理会社代表)
SNSやネット掲示板上でも、「鍵が固かったのでスプレーを吹いたら即座に直った。やっぱり万能」と書き込むユーザーがいる一方で、その数週間後に「鍵が抜けなくなって深夜に出張レスキューを呼んだ」「鍵穴の中で鍵がポキリと折れた」と悲鳴をあげる声が定期的に投稿されている。最初の数日は快適に回るため、トラブルの原因が過去に吹きかけたスプレーにあると気づかない住人が多い点も、被害を深刻化させる一因となっている。